今回は不動産売買契約書の解説です。不動産売買には【引き渡し前の滅失・毀損】についての項目があります。これは民法上【危険負担】と呼ばれるものです。2020年4月の民法改正で、民法の内容も少し変わりました。今回はこの【危険負担】の解説をします。
※重要な判断に関与する記事です。判断をされる際には、必ずご自身で専門家等に事実確認をお願いいたします。
危険負担とは?
危険負担とは、契約後、引渡し前までに目的物が、当事者に関係ない理由で滅失、毀損した場合の責任の所在を定めるための法律です。
主に天災地変で目的物が滅失・毀損したケースを想定した話ですが、これは改正民法の第536条及び第567条に定められています。
売主に帰責性が無くても債務不履行?
不動産売買契約は通常、契約から目的物の引渡までに期間を設けることが多いです。契約後一定期間準備期間を設けて、代金の支払い・所有権移転・目的物の引渡・所有権移転登記を同時に行う日を定めます。(決済日といいます)
では、この契約後、決済前までに、当事者に関係のない理由で目的物が滅失、毀損した場合、誰が責任を取るべきでしょうか?
当然ですが、売主は目的物の引渡債務を負います。しかし、目的物が滅失・毀損した場合、当初予定していた目的物の引き渡し債務を履行できません。
売主に全く落ち度がないのに、債務が履行できなくなった場合、民法だとどうなるのでしょう。
引渡前に目的物に滅失・毀損が生じたら
では、実際に契約から決済までの間に、当事者の責任ではない理由で売買目的物に滅失・毀損が生じたらどうなるのでしょうか?
まず、買主側は、民法536条記載のとおり、反対給付(代金の支払い等)を拒むことができます。滅失・毀損した目的物を提供されて、代金を支払わなければならないのは、買主にとってかわいそうな話です。当然の規定です。
次に、売主側は、どうなるのか。滅失したり、毀損して大部分が壊れて修補不可能となった場合は、債務不履行(履行不能)となりますので、 契約の解除をするしかありません。(民法542条)
契約解除になった場合、売主に原因があれば、損害賠償の話となりますが、今回は天災等が原因になっている前提なので、買主は損害賠償を請求することはできますが、認められにくいでしょう。
修復可能な毀損の場合は、決済日までに修復すれば債務不履行にならないので、修復内容について同意が得られれば、修復して売却することも可能です。
POINT
1、引渡前に天災等で建物が滅失・大きく毀損したら、履行不能による解除
2、買主は損害賠償請求ができるが、天災等が原因の場合は認められにくい
3、修復可能な毀損の場合は、売主が修復して引き渡す
不動産売買契約書の約款を参照
さて、ここまで民法の原則を説明してまいりましたが、本条文は契約書特約で変更することが可能です。実際の不動産売買契約書はどのようになっているでしょうか?民法改正直後ですので、各社の書式が変更中で全容がわかりませんが、参照したひな形は下記のようになっています
売主、買主は、本物件の引渡し完了前に天災地変、その他売主、買主いずれの責めにも帰すことのできない事由により、本物件が滅失または損傷して、修補が不能、または修補に過大な費用を要し、本契約の履行が不可能となったとき、互いに書面により通知して、本契約を解除することができます。また、買主は、本契約が解除されるまでの間、売買代金の支払いを拒むことができます。
2 本物件の引き渡し完了前に、前項の事由によって本物件が損傷した場合でも、修補することにより本契約の履行が可能であるときは、本物件を修補して買主に引き渡します。
3 第1項の規定により本契約が解除された時、売主は、買主に対し、受領済みの金員を無利息で返還します。
パターンA
本物件の引渡し前に、天災地変その他売主または買主のいずれの責めにも帰すことのできない事由によって、本物件が滅失し売主がこれを引き渡すことができなくなったときは、買主は売買代金の支払いを拒むことができ、売主または買主はこの契約を解除することができる。
2 本物件の引渡し前に、前項の事由によって本物件が毀損したときは、売主は、本物件を修復して買主に引渡すものとする。この場合、売主の誠実な修復行為によって引き渡しが表記の期日を超えても、買主は、売主に対し、その引き渡し延期について異議を述べることはできない。
パターンB
パターンAの約款ですと、滅失や修補に過大な費用がかかるほどの毀損が生じた場合は、売主・買主双方とも契約の解除権を有しますし、修補可能な場合は修補して引き渡しとなっています。売主サイドは、修補可能な損傷の修補義務を負いますが、まあまあフェアな内容です。
パターンBの内容ですと、滅失したときのみ、売主買主に解除権があり、毀損した場合、修補に過大な費用が必要とされたとしても修補して引き渡さなければならない。となっています。やや売主の責任が重いですね。ただ、修補に時間がかかったとしても、引き渡し延期についての異議申し立てを排除していますので、この点は売主に優しい約款です。
以上を見てみても、各社不動産売買契約書の約款は異なるので、きちっと読み込むことが必要です。
昔は危険負担の説明をお客様にする際に、「まあ滅多に起きないことですから」などと前置きして説明をしていたりしましたが、2011年の東日本大震災以降、そのような言い方はできなくなってしまいました。
契約から決済までの数か月の災害リスクとはいえ、絶対に何も起こらないことはありませんから、よくよく吟味して契約を締結しましょう。