長期自粛で厳しい状態になっている飲食店舗などからの賃料減額交渉が相次いでいる模様です。
確かに借地借家法には賃料減額請求権というものがありますが、この場合賃料減額請求が認められるのでしょうか?
※重要な判断に関与する記事です。判断をされる際には、必ずご自身で専門家等に事実確認をお願いいたします。
経営不振で賃料減額ができるのか?
借地借家法32条の賃料増減額請求
借地借家法32条には、賃料増減額請求権の規定があります。この規定は下記の条件が揃った時に、当事者双方が、賃料増減額請求をできる旨が記載されており、賃貸借契約書にも概ね同内容の文言が盛り込まれています。
1、租税その他の負担の増減があり、不相当となったとき
2、不動産価格の上昇、低下があり、また経済変動で不相当となったとき
3、近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき
この賃料減額請求をするには、この条件が揃っている必要があります。これは客観的条件が主になります。例えば、自分の経営判断のミスで経営不振に陥ったので、賃料を減額してください。と、こういった請求は認められません。
もちろん、経済変動、例えば新型コロナウイルス対策のための自粛要請によるもので経営不振に陥ったのであれば、客観的条件を満たす可能性がありますので、認められる可能性はあります。
ただし、土地建物の価格が低下したことも明らかではありませんし、近傍同種の借賃が低下している実情も見られていない状態では、認められるかどうかは、難しい判断となるでしょう。もちろん今後、経済悪化がさらに進み、明らかに相場の低下がみられた場合は、認められる方向に傾く可能性はありますが。
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
借地借家法32条
賃料減額請求と交渉の違い
それでは、今現実的に、経営不振に陥っているテナントはどうすれば良いのでしょうか?仮に裁判をしたとしても、確実に勝てるとは言い切れない状況です。
賃貸借契約は、当事者の合意で内容を変更することが可能です。当事者が合意すれば、単純な自己責任での経営不振だったとしても、賃料を減額もしくは猶予してもらうことは可能です。
ですので、法律に従って請求することが難しくても、単純に減額や猶予の交渉をして納得してもらうことは可能ということです。
賃料減額交渉はあくまでもお願い
借地借家法32条の規定を前面に振りかざし、賃料減額の権利があるような言い回しで、高圧的にオーナーに減額を迫る事例も見られています。
しかし、先ほども述べたように、経営不振を原因とする減額請求は、客観性が整わない限り自己責任であるとも言えますので、高圧的に迫るのは合理性を欠く行為だと思います。
オーナーも多額の融資を受けて賃貸経営をしていますので、決して暴利を貪っているわけではなく、賃料を減額すると、オーナーも経営難となってしまいます。
賃料交渉をするにあたっては、オーナーの事情をしっかり踏まえたうえで、しっかりと話し合いをする必要があります。あくまでも減額や猶予は、オーナーの善意から発生するモノです。
オーナーにとっても、減額するくらいならば、退去を選択する可能性もありますので、そういったリスクを踏まえて、①客観的事情②現状の経営状況と今後の経営方針③回復した場合の条件。などを整理したうえで、誠意をもって交渉に臨むことが必要です。
賃料減額請求という言葉が独り歩きしているように思います。
確かに、自粛要請などで経営不振に陥っているテナントはありますし、そういったテナントに対しての救済措置は必要だとは思いますが、便乗して減額請求を迫るテナントも多いのは事実です。
署名を集めて高圧的に迫るなど、過剰な行動が見られます。
賃料減額請求をする客観的事情が無いと、請求権がないという点を認識したうえで、苦しいテナントは誠意ある交渉をしていただきたいと思います。