2019年11月頃、長崎県で100世帯を超える戸建団地内の私道を保有している会社が、突然通行料の請求及び通行止めの措置をとったと話題になりました。
住民側は道路がライフラインだとして通行止の解除を主張し、裁判となりました。結果はまだ出ていませんが、私道という道路に関係する人たちに大きな衝撃を与えました。
その後はまだ結論が出ていません。たしかに民間人が保有している道路が私道なのですが、道路を通行止めしてしまって良いのでしょうか?
※重要な判断に関与する記事です。判断をされる際には、必ずご自身で専門家等に事実確認をお願いいたします。
私道を通行止めにして良いのか?
私道の権利
私道とは、民間人が所有している、建築基準法上の道路のことを指します。土地を所有権という権利で所有しているのですが、所有権の権利を行使することができるのでしょうか?
所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
民法206条
例えば、個人の所有している戸建で考えていただきますと、その戸建の周囲に塀を巡らせて立ち入ることを禁止しても、問題はありません。これが許されないと平穏な生活を送ることができません。
そういった視点から考えると、私道とはいえ個人の所有している土地なので、所有権の行使ができると考えても違和感は感じません。
私道の公益性
しかし、私道とは、建築基準法の要請により、特定行政庁より指定された道路です。所有権は排他的な権利ですが、私道として指定された時点である程度の制限は受忍されるべきと考えられます。
私道は、公益性の名の下に、私権が制限されているということです。建築基準法の目的に反する所有権の行使は、認められないという事です。
建築基準法の目的に反しない限り、私道所有者は,私道の通行に関し合理的な制限を課すことが許されるとして、営業用駐車場の利用のための自動車の通行禁止を認めた
(長崎地裁佐世保支部昭和58年5月25日判決)
近隣住民の私道の通行権
では、近隣住民がその私道を通行する権利があるのでしょうか?建築基準法の目的は、近隣住民の生活の利便性を目的とはしていません。参照すると、下記のような判例がありました。
私道所有者は、自己所有の2項道路を他人が通行することも受任すべきであるとして、私道所有者からの通行権不存在確認及び通行禁止請求は権利の濫用にあたるとした
(東京地裁平成19年2月22日判決)
この判例は、私道の所有者が、私道に接する土地の所有者に対して私道の通行権がないことの確認及び通行の禁止を求めたものです。
近隣住民の中でもこの私道を利用しなければ建物を建築できでないような土地に居住している方は、この道路の使用・通行の利害関係人と言えますので、私道に接している土地に居住している人達の通行は、可能と考えて良いと思われます。
判断が難しいのは、この私道を利用しなくても問題ない人たち、例えば、通勤時の近道として利用している、犬の散歩に利用している、他に通り抜ける道路がある。などの方々です。
これに関しては明確な判例はでておらず、今後の裁判例次第で変わってくるでしょう。
通行権を時効取得できる?
地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第三章第一節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。
民法280条
地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができる。
民法283条
通行地役権とは、ある土地(要役地)を持っている人が、その土地のために、他人の土地(承役地)を使わせてもらう権利です。
この権利を主張するためには、当事者の合意が必要なのですが、 継続的に行使され、外形上認識できるもの であれば、原則、時効取得が認められます。 以上より、通行を長い期間黙認していた場合は、通行地役権の時効取得が認められる可能性もあります。
POINT
・建築基準法の目的に反した通行止めはできない
・この私道に接する土地の所有者の通行止めは原則できない
・私道に直接関係のない人への通行止めはできる可能性がある
・通行を長年黙認していた場合は、通行権が時効取得される可能性がある
・最後は所有権と公益性のバランスで判断される
私道問題は非常に判断が難しく、一概にどちらが正しいかはっきりと判断できない状態が長年続いています。過去の裁判例を振り返ると、判断基準を【所有権と公益性のバランス】にとして、個別に判断しているようです。今後も色々な判例が出てくると思いますので、注視していきたい分野です。